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岡山地方裁判所 昭和31年(行)17号 判決 1962年5月22日

原告 小僑賢郎

被告 児島税務署長

訴訟代理人 上野国夫 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三一年一月三一日原告に対しなした昭和二九年分所得税更正決定中広島国税長がなした所得税審査決定により減額された金額を控除した部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として「(一)、被告は昭和三一年一月三一日原告に対し原告のなした昭和二九年分所得税確定申告について原告の所得金額を営業所得五六六万五、三一八円、農業所得八、〇〇〇円、配当所得五八万三、七三六円、給与所得四三万二、〇〇〇円合計六六七万九、〇五四円とする更正通知をなした。(二)、右更正通知には広島国税局収税官吏の調査によりなされた旨の記載があつたので、原告は、再調査の請求をなすことなく、広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は、同年七月五日原告の所得金額を営業所得五〇一万五、五八三円、農業所得八、〇〇〇円、配当所得五八万三〇七三六円、給与所得四二万二、〇〇〇円合計六〇二万九、三一九円とする審査決定をなし、右決定は同月一〇日原告に通知された。(三)、しかし同決定は真実の所得金額によらない不当なものであるから、被告のなした前記更正決定中広島国税局長のなした審査決定により減額された金額を控除した部分の取消を求める。」と述べ、被告の主張に対し「被告の主張(一)の事実中事業所得金額を否認し、その余の所得金額を認める。(二)の事実中(1) の申告分の海運所得金額と認める。(2) の脱漏分のうち(イ)の海運収入については脱漏の事実および金額を争う。原告は小橋塩回送店、訴外片山恒雄は小橋塩回送店玉島営業所、訴外三宅勉は同山田営業所、訴外木下英一は同牛窓営業所の名称をそれぞれ用いているけれども、これは海運局などの指示により岡山県下における塩の回送店として名義を統一するため専売公社の承認を得て前記名義を使用させていたものであつて、右各営業所はいずれも原告とは独立してその業務を営んでおり、右各営業所の所得を原告に帰属せしめることはできない。なお、各営業所の海運収入は玉島営業所三〇二万六、七一〇円、山田営業所三二四万六、五七四円、牛窓営業所八七万〇、九一二円三六銭、ほかに着地間接費七一万一、四七六円六〇銭である。(ロ)の雑収入については、原告が、訴外日本塩回送株式会社から被告主張の金員を受領したことは認めるけれども右金員は交際費として玉島営業所へ二〇万円、山田営業所へ三〇万円、牛窓営業所へ二〇万円を交付し、その余は原告においていずれも経費として費消したものである、(ハ)の精算差額については、昭和二八年度分の所得金額が概算であることは認めるけれども、その精算差額を否認する。」と述べた。

被告指定代理人らは、主文同旨の判決を求め、答弁として「原告の請求原因事実中(一)、(二)は認めるが、(三)は争う。」と述べ、主張として「(一)、被告がその後調査したところによると、原告の所得金額は事業所得五三五万五、〇五七円、農業所得八、〇〇〇円、配当所得五八万三、七三六円、給与所得四二万二、〇〇〇円、合計六三六万八、七九三円であるから、右金額を下廻る所得金額による更正決定を取消す理由がない。(二)、右事業所得の明細は次のとおりである。(1) 、申告分、海運収入金額三八〇万六、九〇三円、必要経費三〇四万七、七七六円、海運所得金額七五万九、一二七円(2) 、脱漏分、(イ)海運収入金額一、〇二五万五、七三六円、必要経費八二〇万九、七一六円、海運所得金額二〇四万六、〇二〇円、右海運収入は、原告の経営する小橋塩回送店玉島営業所、同山田営業所、同牛窓営業所の海運収入であつて、その内訳は別表(一)のとおりである。これに対する必要経費は、昭和二九年分の確定申告の際に原告が計上した収支の割合八〇、〇五%に従つたものである。(ロ)雑収入金額二一九万六、七〇〇円-右雑収入は、訴外日本塩回送株式会社が原告の担当していた輸送地域の陸上小運送を直営することとなり、原告が右訴外会社から右運送により生じた利益の七割を分配金として受取つたものである。(ハ)、精算差額三五万三、二一〇円-昭和二八年度分の所得金額は概算であつたので、これを精算し、その差額を昭和二九年分の所得として計上するものであつて、その内訳は別表(二)、(三)のとおりである。」と述べた。

立証<省略>

理由

原告の昭和二九年分所得税確定申告についていずれも原告主張のとおり被告が更正をなし、広島国税局長が審査決定をなしたことは当事者間に争いがない。そこで、原告の昭和二九年分所得税の課税標準として、被告のなした更正、さらには広島国税局長の審査決定により確定された所得金額金六〇二万九、三一九円が適正なものであるか否かを検討する。被告は審査決定後の調査によれば原告の昭和二九年の所得金額は金六三六万八、七九三円であるから、これを下まわる前記所得金額は適正であると主張する。被告主張の原告の所得金額中、農業所得金八、〇〇〇円、配当所得金五八万三、七三六円、給与所得金四二万二、〇〇〇円については当事者間に争いがない。また、事業所得中、原告の申告にかかる海運所得金七五万九、一二七円についても当事者間に争いがない。従つて、被告主張の脱漏分たる事業所得について以下に個別的に検討して行くこととする。

(イ)  海運所得金二〇四万六、〇二〇円について、

原告が小橋塩回送店を営んでおり、右海運所得がその金額の点は別として小橋塩回送店玉島営業所、同山田営業所、同牛窓営業所の海運収入によるものであることは当事者間に争いがない。そこで、まず、右営業所から生ずる収益の実質的な帰属者が原告であるか否かが問題となる。(1) 成立に争いのない甲第八号証の一、二、原本の存在および成立について争いのない乙第四号証、証人片山恒雄の証言により真正に成立したと認められる同第一〇号、成立に争いのない同第一六、第一八号証、証人片山恒雄(第一回)、同三宅勉、同木下英一、同古谷秀子の各証言の一部、同内田蔦吉の証言によれば、原告の経営する小橋塩回送店は訴外日本塩回送株式会社との委託契約により同訴外会社が訴外日本専売公社より請負つている回送塩の取扱いをなしており、小橋塩回送店は児島、琴浦地区を、同玉島営業所(責任者片山恒雄)は玉島寄島、水島地区を、同山田営業所(責任者三宅勉)は山田、玉野地区を、同牛窓営業所(責任者木下英一)は牛窓地区をそれぞれ担当していること、昭和二九年当時の右各営業所における回送業務の過程は、右訴外会社が訴外日本専売公社の命令にもとずき小橋塩回送店に対し塩の種類、数量などを指示してその運送を指図し、小橋塩回送店は右各営業所に更に指図し、右各営業所はその指図に従つて運送ないし小橋塩回送店の名において運送の取次をしていたというのであること、前記委託契約においては小橋塩回送店は前記訴外会社の承諾がなければこの契約の履行を他に委託できない旨定められており、小橋塩回送店が同訴外会社から右承諾を得た事情は窺われないこと。(2) 成立に争いのない乙第五ないし第八号証、前記同第一〇、第一六、第一八号証、その形態、記載内容など弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる同第一三号証の一、二、証人内田蔦吉の証言により真正に成立したと認められる同第一四号証、前掲(1) の各証言および証人三好勤、同常本一三、同安原宗夫の各証一声によれば、右各営業所の取扱つた回送塩の取扱運賃は小橋回送店から前記訴外会社に対し一括して請求し、支払を受けているが、小橋塩回送店がその取扱運賃の全額を受領後ただちに右各営業所に支払つてはいないこと、右各営業所が回送塩の運送を委託した先(例えば訴外日本通運株式会社)への運送賃の支払は主として右各営業所においてなされているが、小橋塩回送店から直接なされることもあつて一定していないこと、右各営業所におけるその他の経費についても適宜交際費などの名目で小橋塩回送店から出損を受けていること。(3) 成立に争いのない乙第一ないし第三号証、前記同第一〇、第一六、第一八号証、証人三好勤、同常本一三、同安原宗夫の各証言によれば、小橋塩玉島営業所責任者片山恒雄、同牛窓営業所責任者木下英一はいずれも昭和二九年について小橋塩回送店を給与支払者とする給与所得の申告をしており、同山田営業所責任者三宅勉は昭和二九年は無申告であるが、営業形態を同じくする昭和三〇年一〇月までについて右同様の給与所得の申告をしていること。(4) 成立に争いのない乙第二三、第二四号証、証人片山恒雄(第一回)、同木下英一、同古谷秀子の各証言の一部、同服部賀寿男の証言によれば、小橋塩回送店は昭和三〇年一〇月法人組織に改め、訴外小橋塩回送株式会社が設立されたが、この右各営業所の責任者との間に同各営業所の営業権の買収が行われたと考えられる相当な金員の授受も窺われず、株式も総株数二、〇〇〇株のうち一、八〇〇株を原告およびその親族が有し、右各営業所責任者は一律に僅か五〇株しか有していないことからこれら各営業所責任者が営業権を現物出資したものとも考えられないこと。以上の諸事実を認めることができる。以上(1) ないし(4) の各事実を総合すると、右各営業所から生ずる収益の実質的帰属者は原告であるといわざるを得ない。右認定に反する甲第一ないし第三号証、同第四、第五号証の各一ないし一三、同第六号証の一ないし一二、証人片山恒雄(第一、二回)、同三宅勉、同木下英一、同古谷秀子の各証言は乙第一一号証、同第一五号証の一ないし三、同第二〇、第二五号証、同第二六号証の一ないし七および前掲各証拠特に乙第一〇、第一六、第一八号証、証人内田蔦吉の証言にてらし信用できず、甲第八号証の一、二は右認定を覆えすにたりない。しかして、成立に争いのない乙第五ないし第七号証によれば、右各営業所の昭和二九年分の海運収入は原告主張のように別表(一)(営業所欄中、第一ないし第三欄は積地間接費に関するものであつて、第一欄は山田営業所、第二欄は牛窓営業所、第三欄は玉島営業所の各収入であり、第四欄の着地間接費は玉島営業所の収入である。)のとおり合計金一、〇二五万五、七三六円であることが認められ、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。右海運収入の必要経費の算定については当事者間に争いのない申告分の海運収入と必要経費の百分比八〇、〇五%に従うのを相当とすべく、これによれば必要経費は金八二〇万九、七一六円となり、結局所得額は右海運収入から必要経費を減じた金二〇四万六、〇二〇円となる。

(ロ)  雑収入金額金二一九万六、七〇〇円について、

右雑収入は訴外日本塩回送株式会社が原告の担当していた輸送地域の陸上小運送を直営することとなり、原告が訴外会社から右運送により生じた利益の七罰を分配金として受取つたものであることは当事者間に争いがない。そうすると、右雑収入については必要経費の存する余地なく、その全額が所得額ということになる。原告は右金員はすべて経費として費消したと主張するけれども、それは右金員の実際の使途を説明するにとどまり、しかもその使途はいずれも海運収入の経費であつて、すでに算定済のものであるから、原告の主張は失当である。

(ハ)  精算差額金三五万三、二一〇円について、

小橋塩回送店前記各営業所の昭和二八年度の海運収入が概算であつたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第六、第七号証、証人古谷秀子の証言によれば、右昭和二八年度の海運収入については昭和二九年三月に訴外日本塩回送株式会社との間に精算が行なわれ、その差額がその頃訴外会社から原告に対し支払われたこと、右概算額は別表(二)(営業所欄中、第一ないし第三欄は積地間接費に関するものであつて、第一欄は山田営業所(第二欄は牛窓営業所、第三欄は玉島営業所の各収入であり、第四欄の着地間接費は右各営業所の収入の合計額である。)のとおり、右精算額は別表(三)(営業所欄については別表(二)についての説明に同じ。)のうち着地間接費昭和二九年三月分の欄に「一八万六、四二七円」とあるのを「八万九、六六〇円」と訂正し、各合計欄をこれに応じ訂正するほかは別表日(三)のとおりであり、結局精算差額が金二五万六、四四三円であることが認められ、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。そして、この精算差額についても前述のように必要経費の算定をなし、これを減じたものを所得とするのが相当であり、これによれば右精算による所得額は金五万一、一六一円となる。

以上に認定した原告の所得総額は金六〇六万六、七四四円であつて、前記被告のなした更正、広島国税局の審査決定により確定された所得金額を超過することは明らかであるから、前記所得金額は真実の所得金額の範囲内の適正なものということになり、原告の請求は理由がない。

よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 池田章 小栗孝夫 永岡正毅)

別表(一)ないし(三)<省略>

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